(5)自転車で得た根性(総括)
随分ながい総括になりましたけれども、これが最後になります。
自転車での日本一周。既に多くのことを綴りましたけれども、でも決してこれが全てと言うことではありません。
さて、日本一周で得たもうひとつの財産が、「根性」です。
根性、の持つ意味には色々なことが含まれていると思います。
私が旅で得た根性、それは次の2点についてです。
(1)苦難に耐える根性
今年の夏はほんとに暑かったですよね。それでも高知生まれ関西育ちの私にしてみれば、8月を北海道で過ごすことが出来たことは、ある意味、暑さ知らずの夏で終わってしまった感じです。
それでも夏であることに変わりはありません。ましてや自転車に荷物を積み込んで走っているわけですから、それは大変であったことは確かです。
とりわけ今年の夏は例年になく暑かったようでして、その暑さにへこたれずに最後まで踏ん張ることが出来た自身に、ごほうびを与えたい心境です。結果として、いつしか自身の中に根性のかたまりが育まれたようです。
炎天下、大雨の日になると、時々心の中で「負けてたまるか!」と雄叫びを出しながら走ったことが多々ありました。
(2)孤独に耐える根性
在職中は、様々なことがあったにしても、そばにはいつも職場に仲間がいました。帰宅すれば家族がいます。でも、一旦、旅に出てしまうと24時間、常に単独行動になります。ましてや自転車です。車の旅であれば、夜になっても雨が降っても逃げ込むための気楽に過ごせる空間があります。
単独での自転車の旅は、その場所が山の中であったとしても、耐え抜く以外にそこから逃げ出すことができません。ちなみに、いちどイノシシがでてきたこともありました。時には真っ暗な林道の中を、ライトの明かりを頼りに走り抜けたこともあります。林道ですから車の往来など全くありません。誰もいないところで寝たこともあります。
自転車の旅を通じて培ったもうひとつの意義、それは孤独に耐える根性でした。
九州の道の駅でしたけれども、東京在住の50歳後半と思われる男性でしたけれども「実は、死の場所を求めての旅でした」と言う方と巡り合いましたました。
ママチャリで死に場所を求めての放浪の旅をしていたんです。
話の途中で彼の重い口からやっと出た本音のことばでした。みず知らずの私に心中を打ち明けることで、恐らく彼も内心すっきりしたはずです。彼は「自殺はしません」と私の前で断言してくれました。
彼は、旅で出会った方から「九州も走ってみては・・・」との助言から九州一周の旅へと向かっていました。九州の旅の途中で、九州を拠点として自転車の旅をされている年配の方(旅の達人)との出会いも相まって、自殺を思い止まってくれました。自身の考えが愚かであったことに、自転車の旅を通じて気づいてくれたんです。
道の駅でこの方との会話のなかで、「これまでの自分の人生がいかにちっぽけなことであったのかが、自転車でここまで走り抜いてみて初めて分かりました。ほんとに自転車で良かった。自分に息子がいれば、絶対に日本一周をさせます・・・」とその時の心境を私に語ってくけれました。
この考えは、私と全く同じです。
自殺まで考えての自転車の旅ですから、かなりの悩みがあったはずです。いずれにしろ自転車で死に場所を求めた旅が、逆に自身の命を助けてくれるきっかけとなりました。ひたすら走り抜いた日々、東京から九州まで駆け抜けた根性、同時に人との出会が彼の悩みを葬ったことは確かです。
孤独と苦難に耐え抜く双方の根性が身についてくれたようです。
余談ですが彼は今、九州のある市内で暮しているはずです。